営業職であり、技術者でもある。「FAE」の最初の役割とは。
フィールドアプリケーションエンジニア(以下、FAE)。半導体業界における技術営業職をこう呼ぶ。「FAEは自分の天職」だと語る井上。今、彼が取り扱っているのは、自動車部品を制御するデバイスだ。電子制御のコアとなるチップを半導体メーカーから仕入れ、自動車部品サプライヤーに提案・販売している。「すべてのプロジェクトは、お客様である自動車部品サプライヤーのニーズを発掘するところからはじまります。自動車業界におけるモデルチェンジのスパンは、およそ4年。つまりお客様は、4年後にリリースされる自動車に搭載されるデバイスを求めているのです」。それゆえに、非常に高度な機能をリクエストされることも少なくない。「技術的な細かいニーズを正確に把握するには、やはり技術者レベルの専門知識が必要。その上で、お客様の要望をどれだけ早く深くヒアリングできるか。プロジェクトを進めていくFAEとして、最初の腕の見せどころです」。そうして吸い上げたニーズを仕入れ先メーカーと共有し、いざ、商談がはじまる。井上は言う。ここからが長い道のりなのだと。「実際に商談を成約させ、さらにその後、完成した製品を納品するまでには、いくつものハードルを乗り越えなければなりません」。
井上の持論。「FAEは、とことんお客様目線であれ」。
お客様である自動車部品サプライヤーと、仕入れ先である半導体メーカー。プロジェクトの初期段階で必ず発生するのが、双方間の認識のギャップだ。「自動車部品サプライヤーは、言わばカスタムメイドのデバイスを求めています。自分たちの独自な要求にピンポイントで応えてくれるデバイスを期待しているのです。対して半導体メーカーは、一般的な要求にまんべんなく対応できる、汎用性の高いデバイスを提案しようとします」。ここで、多くのFAEが岐路に立たされる。お客様の要望を優先すべきか、仕入れ先の提案を尊重すべきか。井上はこう断言する。「FAEは、とことんお客様目線であれ」と。「三信電気は『モノ』を売る商社です。立場上、『モノ』をつくる仕入れ先の目線になってしまいがち。しかし、実際にその『モノ』を用い、市場に出回る自動車部品を組み上げるのはお客様です。だからこそ私は、お客様にとって一番使いやすい仕様のデバイスを売りたいと考えています」。そのためには、仕入れ先のエンジニアと目的意識を共有しなければならない。「彼らに要望を伝えると、技術的な疑問をいくつも投げかけられます。論理的、かつ真摯に答え、納得してもらった上で、ともに開発に臨みます。仕入れ先とのパートナーシップを構築しながら、『お客様の満足』という共通の目的に向かっていく。簡単なことではありませんが、プロジェクトを成功に導くため、避けては通れないプロセスです」。
技術商社ならではの強みと、ピンチをチャンスに変える方法。
自動車部品の開発には約3年の期間が設けられているが、最初の試作品は、通常、半年程度で完成する。「後の2年半はテスト期間です。動作の不具合に対し、検証と修正を繰り返します」。この段階で活躍するのが、三信電気の技術部隊なのだと言う。「お客様の開発チームに参加し、技術面のサポートを徹底して行います。技術商社ならではの高度な開発リソースも、三信電気を選んでいただいている大きな理由のひとつです」。そうした万全な体制をとっていても、予期せぬトラブルは必ず起こる。不慮の事態に直面したときのスピーディで真摯な対応も、FAEに課せられた重要なミッションだ。「思ってもみなかったトラブルを切り抜けたとき、お客様の自分への信頼度が増していることに気づいたんです。それ以来、『ピンチはチャンスだ!』と捉えるようになりました」。そう力強く語る井上が、FAEとして見据えている展望とは。「今、私が担当しているデバイスは、単独では動作しないものです。他の部品やソフトウェアと組み合わせられることによって、はじめて価値が生まれます。今後はこうした関連部品やソフトウェアにまで、提案の範囲を広げていきたいと考えています。お客様が抱える課題を理解した上で、その課題を解決し得る機能を持ったセットを組み上げ、喜んでいただきたいですね」。